乳がんについて

乳がんについて

乳がんについて

乳癌は、現在日本人女性が罹患する癌の第1位であり、女性の癌罹患全体の約20.5%を占めます。一方、死亡率は第5位です。年齢階級別乳癌罹患率は30歳代から急激に増加し、40歳代後半から50歳代前半にピークを迎えます。乳がんとは、乳房の乳腺に発生する悪性腫瘍を指し、大きく「非浸潤がん」「浸潤がん」「パジェット病」の3つに分けられます。 「非浸潤がん」はがん細胞が乳腺組織を取り囲む基底膜を越えないもの、「浸潤がん」は基底膜の外にまで広がったもの、そして「パジェット病」は腺癌細胞が乳頭皮膚に達して乳頭部にびらん(ただれ)が発生したものです。パジェット病の乳腺内には非浸潤性乳管癌や浸潤性乳管癌を伴うことが多いと言われています。

乳がんは食生活やホルモンが
関係している?

女性のがん部位別罹患数(2018年)

(出典:出典:国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」)

近年乳がんが増加している理由として考えられるのは、主に食生活の欧米化、女性の社会進出が挙げられます。
食生活の欧米化(高たんぱく・高脂質な食事)によって、早期の初潮、遅い閉経という傾向を認め、また多くの女性の社会進出によって妊娠・出産の機会が減少しました。月経中は乳がん細胞を増殖させる「エストロゲン」という女性ホルモンが多量に分泌されるため、乳がんが増加していると考えられています。

乳がんの症状チェック

乳がんの症状チェック乳がんの主な症状をご紹介します。よく知られている「しこり」以外にも、さまざまな症状があります。

しこり

乳がんの代表的な症状です。 乳がんのしこりは表面がゴツゴツとしており、硬く動きにくく、良性のしこりは表面が平滑でやわらかく動きやすい傾向があります。しかし、これはあくまで特徴にすぎません。しこりを自覚した場合はすぐに医療機関を受診してください。

乳房の張り・乳房の痛み
(チクチク)

月経期間は乳房が張り、痛みを感じることがあります。乳がんでは多くの場合痛みを生じることはありませんが、時に乳房痛を主訴に乳がんが発見されることがあります。 乳がんの症状として現れる場合には、月経期間以外にもチクチクとした痛みや張りがあります。

乳頭からの分泌物

乳頭から、茶褐色の血が混じったような分泌物が出ることがあります。

乳頭~乳輪部のただれ、かゆみ

乳頭から乳輪にかけてただれやかゆみが生じ、またそれが持続したり繰り返されたりすることがあります。

乳房皮膚のくぼみ、乳頭の陥凹

以前はなかった乳房皮膚のくぼみや乳頭の陥凹が生じることがあります。

乳頭陥没の手術について
詳しくはこちら

脇の下の腫れ・しこり

脇の下にできた粉瘤が感染して急に腫れることもありますが、乳がんによる腋窩リンパ節転移の可能性も否定できません。当院は乳腺外科と形成外科の専門クリニックですので、両者に対応可能です。

乳がんの原因
(リスク因子・予防因子)

2018年版乳がん治療ガイドライン(日本乳癌学会 編)の疫学・予防の領域において、エビデンスグレード(科学的根拠)は以下のようになっています。

確実 発癌リスクに関連することが確実である十分な証拠あり
ほぼ確実 発癌リスクに関連することがほぼ確実である十分な根拠あり
可能性あり 発癌リスクとの関連性を示唆する根拠あり
証拠不十分 データが不十分であり、結論付けることができない
大きな関連なし 発癌リスクに対して実質的な影響はないと判断する十分な根拠あり

肥満リスク

2018年版乳癌診療ガイドラインによると、日本人において、閉経後の肥満は乳がんリスクを増加させることが「確実」、閉経前の肥満(BMI 30以上)は「可能性あり」とされています。

生活習慣リスク

国際的評価では、喫煙により乳がんリスクが増加することは「ほぼ確実」であり、受動喫煙は「可能性あり」とされています。アルコールも乳癌のリスク要因ですが、閉経前は「可能性あり」、閉経後は「ほぼ確実」とされています。
日本人において、大豆食品及びイソフラボンは乳房発症リクスを減少させる「可能性あり」とされています。逆にサプリメントの服用は「証拠不十分」で、大量に服用することはがん予防の観点からは推奨できない、とされています。また、国際的評価で閉経後女性の運動が乳がん発症リスクを減少させることは「ほぼ確実」とされています。

疾患・治療リスク

糖尿病(ほぼ確実)、長期にわたる経口避妊薬の服用(可能性あり)、閉経後女性ホルモン補充療法(ほぼ確実)などがこれに該当します。
一方、国際的評価では、不妊治療における排卵誘発は乳癌発症リスクを増加しない、とされていますが、日本人の報告がないため、今後の日本人での検討が望まれます。

妊娠・月経リスク

妊娠、月経にかかわる以下の要素は、乳がんのリスクになると言われています。

  • 出産、授乳経験がない
  • 初産が遅かった
  • 初経が早かった
  • 閉経が遅かった

遺伝リスク

乳がん、卵巣がんの既往歴がある血縁者を持つ場合、そうでない場合と比べて、乳がんのリスクが高くなることが分かっています。
親、子、姉妹が乳がんである女性は、いない場合の2倍以上乳がんになりやすく、祖母、孫、おば、めいが乳がんである場合、いない場合のおよそ1.5倍の乳がん発症リスクがあります。乳がんを発症した親戚の人数が多い場合、更にリスクは高くなります。
遺伝性乳がんは乳がん全体の約5%と言われており、BRCA1とBRCA2遺伝子変異による遺伝性乳癌卵巣癌症候群(hereditary breast and ovarian cancer syndromes; HBOC)が代表的なものです。

乳がんステージとサブタイプ分類

浸潤がんは、腫瘍の大きさ(T)、リンパ節転移の有無(N)、遠隔転移の有無(M)によってステージⅠ〜Ⅳに分類されます。(下表)ステージⅡからⅢ、ステージⅢからⅣにかけての生存率の低下を認めるため、いかに早期発見が重要であるかが分かります。ステージⅣでは完治は非常に難しくなります。

ステージ0:非浸潤がん
日本乳癌学会編.乳癌取扱い規約第18版.金原出版P3-62018の内容より院長作成 

サブタイプ分類

一言で乳がんと言っても、がん細胞の性質によって治療法が異なります。
乳がんの性質を示す指標によって5種類に分類したのがサブタイプ分類です。
一般的にこのサブタイプ分類によって治療法が選択されていますが、年齢や基礎疾患により調整することがあります。

サブタイプ ホルモン受容体 HER2受容体 Ki-67 薬物療法
ルミナルA型 陽性 陰性 低値 ホルモン療法
ルミナルB型(HER2陰性) 陽性 陰性 高値 ホルモン療法+抗がん剤
ルミナルB型(HER2陽性) 陽性 陽性 低~高値 ホルモン療法+抗がん剤+分子標的薬
HER2型 陰性 陽性 ホルモン療法+分子標的薬
トリプルネガティブ 陰性 陰性 抗がん剤

乳がんの治療方法・手術

乳がんの治療は、局所治療と全身治療に分けることができます。
局所治療には手術療法、放射線療法があります。
一方、全身治療は抗がん剤や分子標的薬、ホルモン治療といった薬物療法が該当します。
一般に、手術でがんをすべて摘出できる見込みがある場合はまず手術を実施し、次いで術後補助療法を行います。
腫瘍径が3㎝を超えているが温存術を希望する場合、癌の種類や大きさによっては、まず抗癌剤治療を実施し(術前化学療法)、その後手術や放射線療法、残りの分子標的薬治療等を行います。

手術療法

手術療法を行わない非切除治療に関しては、手術と同等の効果を有する十分な科学的根拠がないため、手術可能と診断された場合には、手術が行われます。
手術のタイミングについては、乳がんの種類(サブタイプ)や、治療に有効な薬剤の増加、適応の拡大などによって手術に先んじて抗がん剤治療を行うことがあります。
詳しくは主治医の先生と相談してください。
術式は、乳房温存手術(乳腺部分切除術)と乳房全切除術に大きく分けられます。

乳房温存手術

腫瘍に2㎝ほどの安全域を加えて、乳腺の一部を切除します。適応は腫瘍の大きさが3㎝以内とされておりますが、3㎝を超える場合でも良好な整容性が得られる場合は適応となります。しかしながら、以下の場合は適応外とされています。

  1. 多発がんが異なる乳腺腺葉領域に認められる。
    (腫瘍が限局していない場合)
  2. 広範囲に乳がんの進展が認められる場合
    (主にマンモグラフィで広範囲に当たる微細石灰化が認められる場合)
  3. 温存乳房への放射線治療が行えない場合
    (一部の膠原病、過去に放射線治療済みの場合、患者が放射線治療を希望しない場合 等)
  4. 腫瘍径と乳房の大きさのバランスから整容的に不良な温存乳房の形態が想定される場合
  5. 患者が乳房温存術を希望しない場合

また、BRCA遺伝子変異を有する場合は乳房温存手術が可能であっても乳房全切除術が望ましい、とされています。

乳房全切除術

乳房全切除術は、一般的に乳頭乳輪を含めた皮膚及び全乳腺を切除する術式です。最近では乳房再建術を行うためにできるだけ組織を残す目的で、乳頭乳輪およびごく一部の皮膚と全乳腺を切除する「皮膚温存乳房全切除術」、更には皮下の乳腺のみを切除する「乳頭温存乳房全切除術」が主流となりつつあります。
当院院長は、乳腺専門医と形成外科専門医を有しており、希望される方は連携施設で乳がん手術と乳房再建の両方を院長の執刀で行うことが可能です。
また当院では、切除してしまった「乳頭・乳輪再建」の日帰り手術を行っております。すべて保険適応の術式、自費治療であるパラメディカルタトゥーを組み合わせた乳頭乳輪の再建まで様々な術式を提案することが可能です。お気軽にご相談ください。

乳房再建術について

放射線治療

乳房温存手術の場合、術後に残存乳腺に対して行われます。また、腫瘍が大きい場合、複数のリンパ節に転移が認められた場合にも行います。 通常、25回照射が必要で、週5日の治療を5~6週間続けます。 最近では1回の照射量を増やして照射回数を減らす寡分割照射も行われております。

薬物療法

乳がんは比較的薬物療法で良好な結果が得られます。 手術で切除したがんに対し顕微鏡を用いた病理検査を行い、判明したサブタイプに応じた薬が使用されます。薬物療法には抗がん剤、分子標的治療薬、ホルモン治療などがあります。

ホルモン療法

女性ホルモン(エストロゲン)を栄養として増殖するタイプのがん(ルミナルタイプ)に有効です。エストロゲンを減らしたり、がん細胞がエストロゲンを取り込むのを邪魔することで、がん細胞の増殖を防ぎます。

分子標的治療薬

HER2という特殊なタンパク質を有する乳がん細胞(ハーツータイプ)に有効です。 薬の成分がHER2と結びつき、がん細胞の活動を抑制します。抗がん剤に比べて副作用が非常に軽度です。

抗がん剤

がん細胞の増殖を抑える薬です。活発ながん細胞ほど、効果的です。
副作用として、下痢や便秘などの消化器症状、吐き気・嘔吐、倦怠感、四肢のしびれなどが生じますが、これらの症状を改善する薬剤が多く存在しますので、安心して治療してください。
また、多くの女性が気にされる脱毛、爪の着色は、抗がん剤終了後に少しずつ改善していきます。ただ、毛髪の質の変化、毛量の減少、シミやくすみなどはなかなか改善しないのが現状です。気になる方は当院にご相談ください。

乳房再建・乳頭乳輪再建

手術で失われてしまった乳房を、乳房インプラントや自分の組織を使って再建することを「乳房再建」と言います。 乳がん手術によって失われた乳頭乳輪を再建することも可能です。

乳房再建術【保険診療】

乳がん手術により切除した乳房を再建します。
乳がん手術と同時に乳房再建を行う方法(一次再建)、乳がん手術後に乳房再建を行う方法があります(二次再建)。
自家組織(ご自身のお腹の組織、または背中の組織)を移植する方法、あるいはシリコン製の人工乳房(乳房インプラント)を用いる方法があります。

自家組織による再建

患者様ご自身の腹部や背中の組織を移植して、乳房を再建します。 自然な乳房に近づけやすいものの、組織を採取した腹部や背中に傷痕が残ります。また、血流障害等により移植した組織が壊死(腐ってしまうこと)する可能性があります。

乳房インプラント(人工乳房)

シリコン製の人工乳房(乳房インプラント)を挿入して乳房の膨らみを再建します。 身体への負担が少ないことや、乳房切除の際にできた傷から行うため、新しい傷痕ができないことが、大きな特徴として挙げられます。ただし、自家組織による再建と比べると、乳房が硬く感じることが多く、さらに乳房インプラントは大胸筋の下に挿入されるため、下垂した乳房の再建には不向きです。

乳頭乳輪タトゥー【自由診療】再建した乳頭や乳輪は色が薄いため、パラメディカルタトゥーを用いて着色を行います。表面麻酔で痛みはほとんど感じず、約30分程度で完了する日帰り手術なので、手軽に受けることができます。尚、院長はBiotouch Japanの「乳房乳頭再建コース」受講終了しており、現在まで数多くの実績がありますので、お気軽にお尋ねください。

※また、乳房インプラントを用いた乳房再建は、日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会が認定した施設でしか受けることができませんのでご注意ください。 

乳がん検診とセルフチェックで
早期発見を

乳がんは、早期発見し適切な治療を受ければ、5年生存率は95%にのぼります。 定期的な検診とセルフチェックにて、早期発見に努めましょう。乳がん検診には、乳がん検診公費の補助が受けられる乳がん検診(住民検診)、自費で受けていただく検診(乳房ドック)などがあります。 当院では、住民検診に乳房超音波検査や3Dマンモグラフィ(トモシンセシス)をオプションで加えることができます。

乳がんのセルフチェックは、そのタイミングと方法がポイントとなります。正しい、意味のあるセルフチェックを実践していきましょう。 方法がよく分からないという場合には指導いたしますので、ご相談ください。タイミングは生理開始から1週間後を目安に行いましょう。 閉経されている場合は、毎月日程を決めて行うようにしましょう。

セルフチェックの仕方

セルフチェックの仕方

①まずは鏡でチェック

乳房や乳頭の大きさや色、形に変化がないかを観察します。腕組みをしたまま腕を上げて胸を張ったり、上半身を左右にひねるなどして、いくつかの角度から観察するようにしてください。

②ボディソープや石鹸を活用

身体を洗う時、ボディソープや石鹸を手のひらで泡立て、その手を使ってセルフチェックをすると、しこりなどの異常に気づきやすくなります。

③乳房全体のチェック

乳房全体を手のひら全体で軽く圧迫するように触れていきます。

④乳房中央のチェック

乳房の外側から内側に向けて、手のひらを滑らせていきます。
しこりに触れたような気がしたら、その部分を指先でぐるぐる回すように触って詳しく確認します。

⑤乳房下部のチェック

乳房の下から、乳房を持ち上げるように手のひらで触っていきます。
厚い脂肪に覆われているため、しこりを見落としやすい場所です。

⑥乳房上部のチェック

乳房から鎖骨にかけての範囲を、肋骨に沿うように外側から内側へと触っていきます。

⑦脇の下のチェック

脇の下にあるリンパ節のチェックです。片腕を上げ、反対側の手で脇から乳頭に向かって触っていきます。
両脇について行います。

⑧乳頭のチェック

親指と人差し指で乳房を挟み、乳頭に向けて絞るように滑らせます。
しこり、乳頭からの分泌などがないかをチェックしてください。

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